湯豆腐と豚しゃぶ

夕飯は、かねてからKが「湯豆腐というものを食べてみたい」というので湯豆腐にした。といっても自分も湯豆腐など食べたことはなく、「土鍋に敷いた長い昆布の上でゆらゆら揺れる豆腐」という何かで見たイメージしか無いので本で確認して、「昆布だしを沸くか沸かないかくらいに暖め、豆腐を入れて、あんまり熱くなりすぎないうちに取り出してぽん酢や刻みねぎや花かつおをかけて食べればよい」という知識を得た上で、土鍋に張った水にダシ昆布を3枚ほうり込み、スーパーで絹ごし豆腐を2丁とあれやこれやを買って戻っては土鍋に火を入れて豆腐を切っておいて、それだけではあまりにも寂しいので人によっては鱈の切り身を入れたりするみたいだけど高かったのであり合わせのエノキ茸と椎茸を入れたところで沸きかけた土鍋の火を調節して豆腐を投入し、ものの本にいう「豆腐が踊り出したところ」で取り出してぽん酢と刻みねぎと花かつおをかけて食べてみたところ、どうにも暖めた冷ややっこであり、おおむね予想したような味になった。

コレはどうやったって腕ではなく素材でうまさが決まる料理だなあ、とか、店で売ってる中で一番高い、男前豆腐店の豆腐なんかを使ったらきっともっとおいしくなるんだろうなあ、とか、がつがつ食いたくなるわけではないけど滋味が染み渡るような料理だなあ、とか考えながらなんやかんやで豆腐2丁分を二人で食べきり、米の飯も一緒に食べていたので満腹感もひとしおというところで念のために買っておいた豚切り落とししゃぶしゃぶ用薄切りがそばにあることに気づいた。「ま、せっかくだから一口だけ」と思って残りの湯にさっと通して口に入れたところで、それまで茸と豆腐と米しか口にしていなかった体に肉のうまみがガツンと響いて、気がついたら満腹だったはずなのにKと二人で150グラムくらい入ったパック一つ分を食べきっていた。別腹。

寝る頃にはすっかり「今日食べた豚しゃぶおいしかった」と、湯豆腐の記憶は遠く彼方に去り、つぎの機会にはきっと豚薄切り肉メインの準備をすることになるのだろうな、と思った。

途中まで一文が闇雲に長いのは最初は無意識で、気がついてからはわざと。

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