*「まつのべっ! (1)」秋吉由美子
*「まつのべっ! (2)」秋吉由美子
[amazon_link asins=’4832266047,4832266055′ template=’ProductGrid’ store=’jtcy-22′ marketplace=’JP’ link_id=’a414c81a-a232-11e8-ba41-211453d5864e’]ずっと買おう買おうと思って買っていなかった作品、koabeさんの感想に後押しされたこともあって、先日のジュンク堂で平積みされていたのを購入してきました。
新米幼稚園教諭・松延彩人がこの職を志したのは、小さい頃に一緒に遊んだ、気が強くて彩人を振り回してばかりの幼なじみ・大園皇香の一言がきっかけだった。
急な引っ越しでいなくなってしまった皇香のことを時折考える一方、彩人のクラスには、当時の皇香にうりふたつの幼稚園児・瀬能千景がおり、当時の皇香とおんなじように、彩人のことを「まつのべっ!」と呼んでくる。混乱する彩人の前にはさらに、テレビで「今売り出し中の新人女優」として大園皇香が登場する。
当時の大園皇香との思い出、今目の前にいる園児の千景、さらにテレビの向こうに現れる現在の大園皇香に思いを馳せる彩人に、それを取り巻く幼稚園の同僚先生・園児の保護者たち・大園皇香の関係者たちが複雑に関係する、という内容の、4コマギャグマンガです。
この、「4コマギャグマンガ」というのが一番すごいところで、これだけの内容を含みつつ、ほぼすべての4コマにきちんとオチを付けているのが、まず特筆すべきところです。
私は本作を最初の1~2年ほど、この単行本でいえば1巻の前半くらいまで連載で追っかけていました。追っかけるといっても、冒頭で述べたような初期設定を毎回繰り返す展開で、当時読んでいた私は「この先、松延と大園皇香が出会ったりとか、そういう展開はないままずっと続いていくんだろうなあ」とぼんやりと思っていたものです。
2008年に「ついに最終回!」と聞いて、その回だけ(しかも立ち読みで)読んでみたのですが、なんと事態は急展開を見せていたことか。あまりのことに本屋で呆然としてしまいました。
その後、ついに単行本を読むに至ったわけですが、ここにきて再度驚愕しました。私が連載で読んでいた頃から、最終回に向けての布石は着実に打たれていたのです。
1巻終盤から2巻にかけての展開は、ギャグマンガとしてのご都合主義と、ストーリーマンガの緻密さとが組み合わさって、息も切らせぬものとなっていました。とくに、最後にいろいろな種明かし(のようなもの)が行われるに至って、その思いはいっそう強くなります。ネタバレはたとえ背景同色でも書きたくないので語りませんが、作者は自分の絵柄までをも、ミスリーディングの材料として見事に活用したなと感服せざるを得ません。
この連載が開始された当初の1998年といえば、今のきらら系につながるようなムーブメントはその片鱗も見せておらず、4コマ誌におけるストーリー性を持った4コママンガといえば、わずかに小池田マヤがその役を担っていたような状況であったかと思います。その中で、ほぼ孤軍奮闘と言っていい状況で、最初は他の4コマと同様な無限ループ系の作品と思わせておきながらその間に周到に伏線を張り巡らせ、後半で一気に話を大きく展開させる。その間、前述の萌え4コマの興隆やストーリー4コマ作品の増加という流れに支えられるところもあったとはいえ、これだけの作品を長期にわたってぶれることなく描ききったことは、それだけで特筆に値することでしょう。
作者のデビュー作であり代表作でもある「[amazon_textlink asin=’4832260995′ text=’はるなちゃん参上!’ template=’ProductLink’ store=’jtcy-22′ marketplace=’JP’ link_id=’bb66ef74-a232-11e8-9e4a-09e2e9f4422d’]」すら数年に渡って単行本が発売されない中、本作品が無事単行本化されたことは慶賀の至りです。20世紀末から21世紀初頭におけるストーリー4コマの代表作として、ずっと愛されていってほしい作品だと思います。
ちなみに、作者はあとがきで「幼稚園教諭とアイドル、どっちを男でどっちを女にするか迷った」というようなことをおっしゃっています。逆パターンだったらきっといろいろなところが、もしかしたらストーリーの根幹も異なっていたはずで、そうなっていたらと夢想するのも楽しくなります。常々ジャニーズ好きを公言している作者のことですから(作中の同僚先生の描写にそれが現れているかと)、きっと「濃い」作品ができあがったのではないでしょうか。
私の感想がお役に立てて幸いです。
この4コマ作品はもっと注目され、評価されてよかったはずではないかと思っています。掲載誌の消滅という不運もありましたし、私としてはむしろ萌え4コマなどの隆盛という時代の狭間に落ちてしまった作品ではないかなという気もしています。しかしこうした形で単行本になったことは、作者にとってもそうかもしれませんが、読者にとっても良かったと感じます。
発売される、って時も気にしてたんですがなんとなく見逃して、koabeさんのエントリで再注目して、ようやっと店頭で実物を見られたので購入した、という感じです。
まんがタイムオプショナルもナチュラルも覚えています。小笠原朋子さんが表紙でしたね。掲載誌の変更なんて、そんなに大した影響はないんでは? と一瞬思いましたが、これだけの仕掛けをしてあった作品が、それまでの流れを断ち切られるのは相当な痛手だとようやっと気づきました。
オプショナルは、小池田マヤ先生のひのたまLoveが表紙でしたが、すぐに小池田先生と芳文社が……。そんな中で作者と編集者がよく連載を継続したと思います。また、秋吉先生のギャグもできるしストーリーも作れるという幅広い才能の結晶がこの作品なのではないかなとも感じます。
オプショナルは表紙小池田マヤ先生でしたか。「ほとんど掲載作は変わっていないはずなのに、誌名を変更したのはなぜ?」と当時不思議に思っていたような気がします。