パブリックコメント

文化庁で著作権法の改正についてのパブリックコメントが15日までの期限で募集されています。せっかくなので、と考えて意見を送ったので、ここにも載せておきます。結果発表時にどれかに似た意見が載っていたらお立ち会い。

1ページ「はじめに」について

中間整理の位置づけについて「課題に対する対応策の基本的考え方、委員間の合意の形成の状況とその論点などについてまとめたもの」とされているが、まとめることで一定の結論を得るという目標に対してどのような効果が得られるのかが定かではない。たとえば、本中間整理において「おおむね異論はない」とされた事項については、今後異論を小委員会の場において異論を出すことができなくなるのか。できなくなるとすればその点について事前に説明が必要であるし、異論も受け付けるのであれば、そもそも中間整理をした意味が大きく失われてしまう。

59ページ 「第5章第1節2 調査結果の概要」について

(1)ファイル交換ソフトの利用率・利用者数では、「約3.5%がファイル交換ソフトを「現在利用」しており、「過去に利用」していた約8.6%を合わせると、インターネット利用者の約12%がファイル交換ソフトの利用経験を有している。」とあるが、過去に利用していた者を含めて、ファイル交換ソフトの利用経験者のパーセンテージを出す意味が不明である。「現状について」とするのであれば、過去に使用経験がある者の割合を加えた割合を提示するのは不適当であり、現在の利用者のみを議論すべきである。

また、(2)ダウンロードされたファイル数における調査は、ダウンロードされたファイル全てが権利者に無断で自動公衆送信されたファイルであるかのように記述されているが、ファイル交換ソフトにおいては、権利者が自らの創作物を広く知ってもらうためにファイル交換ソフトで流通させることを明示的に認めているファイルが多数存在する。たとえば、WebブラウザのOperaは、ソフトウェアを入手する方法として、自らのウェブサイトからダウンロードする方法のほか、BitTorrentを利用したダウンロードを推奨している(http://jp.opera.com/download/torrents/)。これらを考慮しないで全てを違法に自動公衆送信されたものであるかのように取り扱う調査は、結果に疑問がある。何らかの方法でうち違法に自動公衆送信されたものの割合を算出しない限り、この数字は無意味である。

さらに、Winnyなど一部のファイル交換ソフトは、使用者の意志と関係なく、キャッシュと呼ばれるファイルを多数ダウンロードし、他者へ提供するために保存することが知られている。こういったソフトを使用する場合、ダウンロードするファイル数は必然的に増加する。このような形のファイル交換ソフトを使用し、その仕組みを一定以上理解しているユーザーは、ダウンロードされたファイル数について質問されれば自らの意志と関係なく、また自らが使用しないこれらのファイルを含めて回答することが見込まれるのであって、このような調査によりダウンロードされたファイル数を集計するのは実態と乖離している。

加えて、ファイル交換ソフトにおいては権利者に無断で自動公衆送信されたファイルが多数存在し、多くは無料で入手できることから、自らがそれを使用するかどうかにかかわらず、「とりあえず多くのファイルをダウンロードしておく」という使い方をするユーザーがいることに着目すべきである。これらのファイルの大部分は実際に使用されることがないまま死蔵されるわけだが、こういったファイルがダウンロードされていることが実際に権利者の権利を侵害し、ひいては文化の発展を妨げているかどうかについてはは疑問の余地がある。以上から、この調査によってダウンロードされたファイル数を集計することは無意味又は実態と乖離した結果を導くのであり、削除すべきであると考える。

66ページ「ファイル交換ソフトの現在利用者による音楽ファイルのダウンロード数」について

本項においては、ファイル交換ソフトによってダウンロードされたとする音楽ファイルの数と、有料音楽配信における音楽ファイルのダウンロード数とを比較しているが、インターネットにおいては有料音楽配信のほかに無料で配信されている多数の音楽ファイルがある。プロであっても、たとえば、平沢進氏は自らのウェブサイト(http://www.susumuhirasawa.com/WORLDCELL/)で自作の多くの曲をダウンロードできるようにしているし、その他多くの作者が自作の音楽を無料又は有料でダウンロードできるようにしている。さらに、レディオヘッド(Rediohead)が自らのウェブサイトで新曲を有料で世界中からダウンロードできるよう公開したように、海外から行なわれた有料音楽配信は日本レコード協会による調査の集計対象外となっていることが予想される。ファイル交換ソフトによるダウンロード集計が、理論的には日本の全てのファイル交換ソフトによるダウンロードを網羅できるようになっているのに対し、有料音楽配信の集計はそうはなっておらず、比較することの意義がほぼ存在しない。本項は削除すべきである。

77ページ「第6章 外国における私的複製の取扱いと私的録音録画補償金制度の現状について」について

調査の対象となっているのは、イギリスを除いてすべてが私的複製に対する補償金制度を何らかの形で導入している国であり、イギリスではほぼすべての私的複製が認められていない。現状の記述では、本項は私的複製に対する補償金制度が存立することを当然の前提としており、今後の議論にあたって予断を与えるものである。小委員会の議論においては私的複製に対する補償金制度そのものが不要になる場合をも検討しているのであるから、私的複製を容認しながらそれに対する補償金制度を導入していない国についても、少なくとも1か国は調査の上で記述すべきである。調査した限りで存在しないのであれば、その旨を調査対象とした国とともに明示すべきである。

101ページ「第7章第2節1(2) 私的録音録画や契約の実態」について

「丸数字2 利用契約の実態から私的録音録画の対価が既に徴収されているのではないかとの指摘があった利用形態」において、各契約中に私的録音録画に対しての補償金が含まれているかを調査しているが、そもそも私的録音録画については法で行えることが定められている利用であり、法で行えることをわざわざ契約の文言等において再契約する事態は極めてまれである。たとえば、著作物を複製して公開することは、当然にそれらの著作物が法第32条により引用され利用されることになるが、一般にはそのことを改めて契約において明示することはない。同様に考えれば、明示的あるいは黙示的に私的録音録画の対価が含まれているかを確認することは意義に乏しい。

104ページ「第7章第2節2(1)丸数字2 a 違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画」について

「ii 第30条の適用範囲から除外する場合の条件」において、「利用者が明確に違法サイトと適法サイトを識別できるよう、適法サイトに関する情報の提供方法について運用上の工夫が必要」とあるが、そもそもそこで配信されている著作物が適法に配信されているか違法に配信されているかは、サイトの開設者によってもしばしば判定できない。新しいところでは、平成17年5月に文化庁長官官房著作権課が公開した「著作権契約書作成支援システム」において、委託業者が用意した画像が他者の著作権を侵害したものだったことが判明した事件がある。仮に違法サイトと適法サイトとを識別する情報提供が行なわれていたとして、本システムのサイトは「適法サイト」と情報提供されていたであろうから、仮に違法サイトからの私的複製が違法とされていたならば、このサイトを閲覧した者は適法サイトであるという情報提供を受けながら違法行為を犯すことになっていたであろう。そもそも、あるサイトにおいて提供されている情報が適法であるか違法であるかは、最終的に司法によるほか判断できず、行政又は民間団体によって適法サイトであると情報提供されても、それが権利者に無断で自動公衆送信されていないとは判断できず、情報提供は意味をなさなくなる。このような破たんを来たすのは、違法録音録画物、違法サイトからの私的録音を第30条の適用範囲から除外しようとするのが原理的に不可能であるからである。そもそも違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画については、現時点で自動公衆送信した者に対しては刑事罰を含む形で違法とされている。他の単純な複製権の侵害等においては、複製した者を違法とし、複製されたものを享受した者については違法とされていないのに対し、複製しないと享受し得ない形である自動公衆送信において、不可避的に行なわれる私的複製を違法とするのは、他との均衡に欠け、適当ではない。少なくとも、違法サイトからの私的録音録画については従来通り適法とすべきである。

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